大阪高等裁判所 昭和55年(う)391号 判決 1980年7月11日
主文
原判決を破棄する。
本件を京都地方裁判所に差し戻す。
理由
(控訴趣意)
本件各控訴の趣意は、京都地方検察庁検察官小林照佳作成の控訴趣意書、弁護人鍋島友三郎作成の控訴趣意書(但し、原判示第一の(一)の事実の限度における事実誤認を主張するものであると釈明した。)及び弁護人中島晃作成の控訴趣意書にそれぞれ記載のとおりであるから、これらを引用する。
(当裁判所の判断)
第一検察官の訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は、昭和五一年九月三〇日付追起訴状の公訴事実第一(改造拳銃の製造)及び同第二の(二)(右拳銃の所持)に関する主張であって、要するに、検察官が右事実の立証のため被告人の自白調書三通、すなわち昭和五一年五月一九日付警察官調書(以下、被告人調書第一という。)同年八月二三日付警察官調書(以下、被告人調書第二という。)及び同年九月一七日付検察官調書(以下、被告人調書第三という。)の取調べ請求をしたところ、原審はこれを却下したが、その理由とするところは、昭和五一年五月一八日と同月一九日の両日に被告人と取調警察官である是平吉昭警察官との間で拳銃を持参提出すれば逮捕せず、かつ罰金で済ませる旨の約束(以下、便宜、不逮捕等の約束という。)がなされた疑いがあるとしたうえ、被告人調書第一は直接的に右約束の疑いの下で作成されたもの、被告人調書第二は間接的にその影響下で作成されたもの、被告人調書第三も右約束の疑いと因果関係がないとはいえないものであるから、いずれも任意性に疑いがあり証拠能力を欠くというにある。しかしながら、本件の取調べには不逮捕等の約束など毫も存在せず、被告人の右自白調書三通は十分な証拠能力を有するものであるのに、これらを却下した原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反があるというのである。
記録を精査し当審での事実取調べの結果をも参酌して調査するに、昭和五一年五月一八日及び同月一九日の両日に是平警察官が被告人に対し原審が昭和五四年七月九日付決定に説示しているような不逮捕等の約束をなした事実も、被告人調書第一ないし第三が不逮捕等の約束の直接間接の影響の下で作成された疑いも見出すことができず、ほかに右被告人調書の任意性に疑いを抱かせるような事情のあることも認めることができない。原審は証拠能力についての前提事実を見誤り、ひいて証拠能力に関する判断を誤ったというべきである。
原審が不逮捕等の約束のあった疑いを否定できない根拠として挙げる主なものは、(一)被告人の供述は尋問を重ねる毎に逐次詳細、具体的になり前後矛盾もなく一貫し合理的で信用できるが、是平警察官の証言は信用できないこと、(二)五月一九日に被告人が本件の拳銃を持って七条署に出頭した時には日本刀の不法所持の件で逮捕状が出ていたのに、同署係官が被告人に対し右逮捕状を執行せず、日本刀についての取調べもすることなく被告人を帰宅させたのは不自然な処置であること、(三)家宅捜索を受けて発見されることのなかった拳銃を格別任意提出せざるをえないような事態に追い込まれていたわけでもない被告人が七条署へ持参して提出したについては、常識的に考えてそれ相応の理由がなければならないのに、是平警察官においてそのような理由について説得力のある説明ができないこと、(四)改造前の模造拳銃及び改造後の拳銃の授受の日時場所、家宅捜索で発見されなかった本件拳銃の被告人の所持の具体的状況、被告人が自らも知り合いのAに直接依頼せずBを介して拳銃の改造を依頼した理由等重要な点について深く関係者を追及した形跡がないことや本件拳銃の押収以降の七条署の捜査が不熱心であることなどから地道堅実な捜査の不足を窺わせる点があること、などである。
そこで、以下これらの点について当裁判所の判断を述べることとする。
まず、(一)の点について
原審証人是平吉昭は三回に亘る公判において尋問を受けているが、その供述は、不逮捕等の約束をしたことはないとする点も含めて全体的に詳細で具体的であるし、明確であり、三回に亘る供述の間に格別の矛盾もないこと、前の尋問の際にした供述についてその後の記憶の喚起に基づいて適宜補充するなど供述態度に真面目さが窺われること、その供述するところが本件拳銃に関する捜査の一連の経過に照らして合理的であることなどに徴して、十分に信用を措くことができる。被告人の供述は、被告人が本件拳銃を任意提出したについてはその前提に是平警察官との間に不逮捕等の約束があったからであるという趣旨においてなるほど一貫しているけれども、後記のように、被告人が拳銃を持って七条署へ任意出頭するについては被告人の側にすでに十分な動機、理由があった可能性が大きいことに徴し、被告人の言うとおり不逮捕等の約束があってそれが動機となったとすることには疑問があるし、原審の第二四回公判における原審証人是平吉昭の尋問の際、五月一八日にも七条署に任意出頭して是平警察官の取調べを受けたとの被告人の質問に対し、同証人から被告人と会ったのは五月一九日に拳銃を持って七条署に出頭して来た時がはじめてであり五月一八日には会っていないと明確に否定されると、「会っていないと言われると私(被告人)は確信を持って会ったのは是平さんだとはよう云えないのです。」などと述べ、取り違えるはずのない取調警察官の同一性について躊躇の態度を示したことなどに徴してにわかには信用できないと考える。被告人の供述が詳細で具体的であるといっても、それは、被告人が暴力団の組員で本件と同種の罪を含め多数の前科を有する者で一般人よりも警察の取調等事件捜査の実際について豊富な知識を有していると推察しうることを考えると、むしろ当然のことともいえるのであって、被告人の本件における供述の信用性についての右判断を妨げるに足る事情ではない。
(二)の点について
五月一九日に被告人が本件の拳銃を持って七条署に任意出頭した際被告人を逮捕しなかった理由について、原審証人是平吉昭及び同川村邦人の両名は、七条署の捜査四係(暴力担当)ではかねて被告人を篠原組の組員であると目していたが、被告人から拳銃の任意提出を受けたことにより当時の重点捜査の目的である銃器を暴力団の手から確保することができたこと、被告人が任意に拳銃を持って出頭し、その入手経路について素直に供述したこと、当時被告人が別件(覚せい剤関係事件)で保釈中であったこと等の事情を考慮し被告人を逮捕する必要がないと判断して帰宅させた旨供述している。
証拠によれば、七条署では、昭和五一年三月二五日ころ京都市内で発生した暴力団同士の抗争事件等を契機として府警本部から暴力団抗争の未然防止と銃器の摘発を眼目とした捜査をすべき旨の指示を受け、その点に重点を置いて捜査中、同年四月中旬ころ被告人がAから改造拳銃を買った旨の情報を得て同月三〇日被告人方及びA方を捜索したこと、捜査の結果、右二か所のいずれからも拳銃を発見できなかったが、A方から改造途中と思われる模造拳銃の部品一式、改造用道具類等を発見したため(このとき被告人方から日本刀を押収している。)、被告人が改造拳銃を自宅以外の場所に隠匿して所持しているとの確信を持ち、電話、呼出状等で被告人に任意出頭を求めたが、出頭する気配がなかったため、同年五月一七日に日本刀の不法所持の事実で逮捕状の発付を得たこと、その狙いは被告人を逮捕のうえ拳銃の件について追及する点にあったこと、ところが右逮捕状の発付を得た翌日の五月一八日突然被告人から七条署の捜査四係に自分を探しているのかと言って電話があり、応待した是平警察官がAから買受けた拳銃を持って出頭するよう説得したところ、被告人は考えてみると言って電話を切ったこと、そして翌日(五月一九日)の午前中に被告人が本件拳銃を持って七条署に出頭して来たので、是平警察官が右拳銃の任意提出を受けてこれを押収するとともにその入手経路につき被告人を取調べたところ、被告人が右拳銃はAから三万五、六千円で買ったものであると供述して供述調書の作成にも応じたことなどが認められる。
このような一連の捜査の経過によってみると、五月一九日に被告人が拳銃を持って出頭して来たことにより少くとも被告人の拳銃の不法所持の嫌疑は十分であるから、この時に被告人を拳銃不法所持の現行犯人として逮捕することは一応考えうる処置であったということができるが、ひるがえって、被告人の拳銃不法所持の事実に関する証拠資料として物証(拳銃)と自供調書が収集されたことによって被告人の右事実の証拠がほぼ固まったこと、被告人が拳銃を持って出頭して素直に取調べにも応じて罪責を自認したこと及び当時被告人が別件で保釈中であることに徴し逃亡のおそれも認められなかったことなどにかんがみると、七条署係官において被告人を拳銃不法所持の現行犯人として逮捕する必要がないとしてこれを逮捕しなかった処置もまた十分に首肯することができる。被告人が拳銃を持って出頭したとき、その二日前に発付されていた日本刀の不法所持の逮捕状の執行を受けていないが、もともと右逮捕状は、その狙いが被告人の身柄を拘束して本件拳銃について追及することにありその意図で発付を得ていたものであったから、七条署係官がもはや右逮捕状を執行する必要がないと考えたとしても何ら不自然ではない。また、当日(五月一九日)被告人を日本刀の件で取調べなかったのも、その取調べを後日に回してより重要な案件の捜査を先にしたというにすぎず、その措置も不合理とはいえない。
したがって、本件拳銃を持って任意出頭した被告人を逮捕しなかった取調官の処置についての原審の説示には賛成することができない。
(三)の点について
被告人が本件拳銃を七条署に持参して提出した動機ないし理由については、被告人の内心にかかわる事柄であるから、この点について尋問された原審証人是平吉昭が「殊勝な心掛けのようにうけとった」、「(被告人が)出頭して来たときに、刀の方はどうせ警察の方に取り上げられているし、この件(拳銃の件)で何回も警察から来られてがたがたされるのはかなわんから持って来ましたというようなことを言っており、この件はどうせ罰金でっしゃろ、まあ何とかええように頼みますわというような言葉を言っていたと思う。」旨供述するにとどまり、それ以上に原審をして納得せしめるだけの説明をなしえないからといって、同人の右供述の信用性を否定するのは相当でない。この点についての被告人の説明は是平警察官との間に不逮捕等の約束があったからであるというにあるが、右約束の存在についてはこれを認めるに足る証拠がなく、かえって、本件記録中には、被告人が昭和五一年四月ころから京都市○○区△△に覚せい剤の密売所を持っていた証拠もあるから同人が何度も警察の捜索が行われることによって右密売所が摘発されることを恐れたと考える余地も十分あり、そうでなくても暴力団員である被告人が自らの拳銃不法所持の嫌疑のために所々に警察の捜索の手が入ることを迷惑としてこれを嫌い「拳銃の件で何回も警察から来られてがたがたされるのはかなわん」という気持を抱き、さればといって当時の警察の暴力団取締方針からみて本件拳銃に対する警察の追及の手が緩むとも考えられず、それならばむしろ本件拳銃を自らの手で持参して警察に出頭し寛刑を得るほうが得策であると考えたことが被告人において本件拳銃を持って出頭した動機であった可能性も十分にあると考えられる。したがって、原審が被告人が本件拳銃を持って任意出頭した動機、理由の点について説示するところには、賛成することができない。
(四)の点について
証拠によれば、七条署係官は、五月一九日に被告人から本件拳銃を押収し、同人から右拳銃はAから買ったものであるとの供述が得られたことに基づき直ちに(五月一九日中に)Aに対する武器等製造法違反等の被疑事実で逮捕状の発付を得て、翌五月二〇日にAを通常逮捕し、同日同人から「Bから改造拳銃を作って欲しいといって模造拳銃一丁を持ち込まれたので、これを知り合いの鉄工所に持って行って改造し、Bに渡した」旨の自供を得たこと(同日府警本部科学捜査研究所に対し本件拳銃の発射機能について鑑定の嘱託をした。)、翌五月二一日Aの自供の裏付け捜査としてD製作所の従業員らを取調べたことなどが認められるのであり、このような捜査状況に徴すると、本件拳銃押収以降の七条署の捜査が原審の説示するほど不熱心であったとはとうていいえない。Aの取調べの直後に同人の口からBの名が出たのに、七条署係官がBをはじめて取調べたのが八月一一日であったことは、原審の説示するとおりであるが、Bの取調べが遅れたことについては、五月二四日に暴力団同士の銃器を使った抗争事件が発生するなど他の要急事件の捜査に手をとられたという事情があったし、Aを逮捕した翌日(五月二一日)に釈放したことについても、同人が本件拳銃を改造した事実を全面的に認めたこと、改造場所の従業員らの裏付け供述が得られたこと、同人に家庭や仕事のあることなどから任意捜査で足りると判断される事情があったからである。また、原審が説示するような事項について直接明らかにする証拠資料は記録中に見当らないけれども、だからといってそれらの点について七条署係官が解明、追及をしなかったということはできないから、右事情も七条署係官が捜査に不熱心であるとか、地道な捜査を怠ったことの理由となるものではない。そのほか記録を調べても七条署係官が本件拳銃に関する捜査について地道堅実な捜査と怠ったという事跡は見当らない。したがって、これらの点に関する原審の説示もまた賛成することができない。
以上のとおりであって、本件の被告人調書第一ないし第三の取調請求を却下した原審の訴訟手続には、証拠の証拠能力に関する判断を誤った法令違反がある。そして右証拠は、いずれも自白調書であることが記録上明らかであり、これらを取調べることにより昭和五一年九月三〇日付追起訴状の公訴事実第一(改造拳銃の製造)及び同第二の(二)(右拳銃の所持)についての原判決の事実認定に変更を生じうることは明らかである。論旨は理由がある。
第二検察官の事実誤認の主張について
検察官は、前記起訴状の公訴事実第一、同第二の(二)及び同第三につき事実誤認の主張をしているが、右第一及び第二の(二)については前記のようにすでに訴訟手続の法令違反の主張に理由があるから、これらの事実についての事実誤認の主張に対する判断は省略し、右第三についての事実誤認の主張についてのみ判断することとする。
論旨は、要するに、Eに覚せい剤を譲渡した人物が被告人であるとは断じ難いとした原判決には事実誤認があるというのである。
調査するに、《証拠省略》によれば、被告人が昭和五一年六月当時京都市○○区△△△△△△△町××番地所在の「コーポ□」三階B室を密売所として覚せい剤を密売していた者であること、Eはもと暴力団の組員であるが、仲間から被告人が右「コーポ□」で覚せい剤を密売していることを聞いて月に二回ぐらい同所で覚せい剤を購入しては使用しており、昭和五一年六月九日も午後七時ころ「コーポ□」へ赴いて覚せい剤約〇・〇三グラムを代金五、〇〇〇円で購入したこと、「コーポ□」では鉄製の玄関ドアの下部の郵便受けの穴を通して密売が行われており、この日もEは右郵便受けの穴に五千円札一枚を差し入れこれと引き換えにドアの内側の人物から覚せい剤を手渡されたことが認められる。そして、ドアの内側にいた人物について、Eは、検察官、司法警察員に対してそれが被告人である旨明確に供述し、原審第一九回公判期日に証人として尋問された際にも同旨の供述をしているばかりか、同人は、右証人尋問の際、ドアの内側の人物が被告人であると認識した根拠について質問されて、これまで被告人と直接会って話したことが五、六回あるし、本件の覚せい剤を受け取ろうとして前記郵便受けの穴から室内をのぞき込んだ時に見えた相手の顔の一部とその時「気いつけて帰りや。」と言った相手の声とからその人物が被告人に間違いないと判断した旨供述しているのであって、同人の認識の根拠が合理的であることに徴すると、ドアの内側の人物が被告人であるとの同人の供述には十分の信用を措くことができる。
そうすると、Eに対し約〇・〇三グラムの覚せい剤を譲渡した者が被告人であることに疑いはない。
ところで、原判決は、Eに本件覚せい剤を売り渡した人物を被告人と断じ難い理由として、本件当時被告人とEとの間には自動車の修理問題が懸案となっていたのに、この時両者間にその話が出た形跡のないことを指摘しているが、Eがこの日「コーポ□」へ行ったのは射つための覚せい剤が欲しかったからであり、覚せい剤を入手できるかどうかがこの時の同人の関心事であったと考えられるから、同人の方から自動車の修理の話を持ち出さなかったとしても何ら不自然ではないし、他方、ドアの内側にいた被告人にとってはドアの外側の人物が覚せい剤の密買者であるかぎり誰であるかについてまでとくに注意を払ったという形跡もないところからみて、被告人が覚せい剤を渡す相手がEであることを認識していたとすることには疑問がある。したがって、被告人の方から自動車の話を出さなかったこともまた何ら不自然なことではない。
このように、原審において取調べられた証拠によって昭和五一年九月三〇日付追起訴状の公訴事実第三は、十分認定することができるから、右事実を認めるに足りる証拠がないとした原判決には事実誤認があり、その誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。
第三弁護人鍋島友三郎の事実誤認の主張並びに弁護人中島晃の訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張について
論旨は、原判示第一の(一)の事実に関する主張であって、要するに、(一)Fの供述中には明らかに虚偽の点があるからその供述全体の信用性が損われているのに、原判決が原判示第一の(一)の事実に副う部分のみを採って証拠としたのは採証法則の違反である、(二)被告人がFに本件覚せい剤を譲渡した事実はないというのである。
(一)について
原審証人Fの原審公判廷における二度の尋問の結果を子細に検討してみても明らかに虚偽と認めうる点はなく、かえってその供述内容が詳細で明確であるばかりでなく、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書の内容とよく一致していること、F自身、昭和五一年一二月二二日に京都地方裁判所で被告人から本件覚せい剤を原判示の日時場所において譲受けた罪と自己使用の罪により懲役一年(四年間保護観察付執行猶予)の判決の言渡しを受け、右裁判が確定していることなどに徴して、同人の供述は全体として極めて高い信用性を有すると認められるから、所論は前提を欠いて理由がない。
(二)について
原判決の挙示する関係証拠によって原判示第一の(一)の事実を十分に認めることができる。すなわち、右証拠によると、Fは、覚せい剤の密売人から被告人を紹介されて被告人から覚せい剤を買うようになり、被告人が密売所としている原判示の「コーポ□」で被告人から覚せい剤を購入して使用していたが、原判示の日の午後六時ころ覚せい剤を買うため自動車で「コーポ□」付近の路上まで来たときたまたま公衆電話を掛けていた被告人と会い、車を止めて被告人に覚せい剤があるかときくとあるというので被告人から薬包紙入りの約〇・〇三グラムの覚せい剤を代金五、〇〇〇円で買受けたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
右のとおりであるから、原判決には所論のような訴訟手続の法令違反も事実誤認もない。論旨はいずれも理由がない。
以上要するに、弁護人らの原判示第一の(一)の事実に関する訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張はいずれも理由がなく、検察官の昭和五一年九月三〇日付追起訴状の公訴事実第一及び同第二の(二)についての訴訟手続の法令違反の主張並びに同第三についての事実誤認の主張はいずれも理由があるから、同法三九七条一項、三七九条、三八二条により、原判決の無罪部分のほか、これと刑法四五条前段の併合罪の関係に立ちこれとともに一個の刑を言渡すべき有罪部分をも合わせて原判決を全部破棄し、刑訴法四〇〇条本文に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 瓦谷末雄 裁判官 香城敏麿 竹澤一格)